いかなご。
小女子や新子と呼ばれる小さなお魚。
神戸市に住む人間としては一度語っておきたい内容である。
自分が語る内容は地元民がそう!!!これこれ!!!と笑い転げる内容にしたいので事細かに記憶の許す限り詳細に語らせてください。
スーパーで働いていたことがあるのでそこも含めて仔細に語りたいのだ。語らせろ。
そもそも、いかなごは、遊びではないのだ。
戦場なのだ。
いかなごといえば毎年恒例で、解禁前ぐらいからどこのスーパーもみりんざらめ醤油や山椒のつぶが野菜コーナー手前のクリスマスのブーツやらお正月の鏡餅やら節分の豆やらが陣取っていたシーズンコーナーに目一杯展開される。
気の早いおばあちゃん達はコーナーを展開する前からスーパーのあちこちでざらめはどこか、山椒の実はあるかと聞いて回ったりする人もいる。
一通り山椒の実が周知された後コーナー展開始まったりしておせぇよ!!って突っ込みたくなるのも通年の儀礼だったりする。
神戸なのでめちゃくちゃせっかちなおばちゃんは少ないけど割とせっかちはそこそこいるのである。
それぞれがあぁ今年も始まるのねとコーナー展開を見て、炊く予定のおばちゃんおばあちゃんは新聞やNHKの夕方6時45分からのニュース等で解禁日を確認しておく。
ついでに行きつけのスーパーで解禁日は何時から販売かもチェックしておく。
なぜ解禁日を確認するかというと、期間がきまってるからである。
しかもいかなごのサイズは変動する。
解禁日から日ごと入荷するたびに大きくなるからである。
釘煮にするとなると序盤の小さい方が口当たりもよく柔らかいので、人気が高いのだ。
ただ、解禁日からすぐのいかなごはグラム単価がその分割高になるのでお財布と相談になるのもまた釘煮の戦略である。
そうしてそれぞれ準備をしたりしなかったりしていかなごの解禁日を待つのである。
解禁日当日、最小のいかなごを求めるおばちゃんおばあちゃんはスーパーに朝一やってくる。
入荷の可否と販売時間を確認するために。
朝一漁で取れたものがスーパーに並ぶので、天候不良だとそもそもいかなごが入ってこないのである。
入る場合はだいたいの時間が掲示されるので一度撤退し10時〜12時ごろまたスーパーにやってくる。
漁がお休みの場合は諦めて帰るし、朝一チェックには来ず一発勝負で買いにくる猛者も多い。
そして問い合わせが多すぎて山椒の実と同じくレジチェッカーにも情報がまわってくる。
そうやって待ちに待った入荷が始まるとまずはサイズチェックと値段チェックから始まる。
腐っても関西圏、お金に関してはシビアである。
高いけど買うはよっぽどでないとない。
自分の満足のいくサイズと値段であれば買って帰るし、値段が釣り合わなければここで一度撤退して夕方出直してくる人もいる。
実はいかなごは小魚ゆえの劣化の速さからかスーパーでは日を跨ぐことができない。
痛みやすい魚なので価値の下がり方は普通の生物より早い。
昼に1割引、夕方に3割、夜に半額とゴリゴリどんどんと下がっていく。
そりゃあ皆安い方がいいので夜に買いたいが、ここで釘煮の所用時間が幅を効かせてくる。
まず、売ってる量が500gか1kgしかないので大鍋が必要である。
それを洗って水気を切ってから醤油やらなんやらを入れて水気がなくなるまで煮るのでめちゃくちゃ時間がかかるのだ。
夕方にさしかかってくると晩ご飯の調理の時間帯と被ってくるのでコンロを独占するわけにもいかない。
それこそ味噌汁と釘煮しかない晩ご飯にするわけにもいかない。
かといって晩ご飯お風呂等の夜の業務後に釘煮に取り掛かると夜の21時スタートとかになってしまうので何時に布団に入れるかわからないのである。
そんな感じで夜のスケジュールを犠牲にして安売りを狙うか、はたまた朝一の時間で余裕があるけど定価を狙うかで戦略が違ってくるのである。
しかも漁なので土日祝はお休みである。平日のみしかチャレンジできないのでめちゃくちゃ大変。
更に戦略性を向上させてくるのが売れ行きと入荷数である。
いかなごに関しては完売がよくある話で、初日から大量に獲れなかった為多くは入荷しないことももちろんある。
初日は5パックのみの入荷もままあるし、それを金に糸目をつけないセレブおばあちゃんが買い占めていくこともままある。
夕方3割引きのが残っているから夜半額狙いで…の見込みが夕方思ったより売れて夜まで在庫がもたないもそこそこある。
なんなら半額になるのを待って即買い占めて帰るのを成功させるおばちゃんなんかもいる。
レジ売ってた頃それで安いから!!って18時に5キロ買って帰るおばちゃんいたな…
持って帰れるかめちゃくちゃ心配になったな…
そして解禁日とともにいかなごは日ごとサイズが大きくなり、煮干し手前くらいで解禁期間が終了していかなごシーズンが終わる。
そこまで大きくなると需要が落ちるので値段もピークの2割くらいは下がっていることが多いので、このサイズで作る人もいる。
そんな感じで毎年いかなご見るとレジ売ちとしては春だなぁと思って余裕があればお客さんに声をかけていた。
だいたい大量購入してる人は武勇伝持ってるので今年どんだけ炊いたかとかそれまでどんだけ炊いたかとか誇らしげに教えてくれるしめちゃくちゃ皆いい顔してたので話するの楽しかったな〜〜〜
そんな感じのいかなごの釘煮だが、ここ10年ぐらいで暗雲が立ち込めている。
まず、ここ10年くらいで値上がりがすごかった。
だいたい作られてた頃のいかなごが1キロ1000円とかで、まぁ高い年で1500とかでそこから大きくなれば下がりみたいな感じだったのがいきなり値段がゴンと上がり始めた。FGO第一部の6章の難易度くらいゴンと上がった。
解禁初日1キロ4000円とかする年がたまにありつつもその後も何年も1キロ2000円とか3000円とかを行ったり来たりしている。
我が家の母も親族や関東の友達への春のお歳暮みたいなスタンスで作っていたけれどももう何年もその状況なので断念した年が何回かあるくらいにはたけぇ。ほんとたけぇ。
何年か不作が続きいかなご無しの年が続いたある年に父が作って送って欲しいと駄々を捏ねた年もあった。
父が費用を負担するなら作ると母に突っぱねられて諦めていた。
諦めるんかい。
でも1キロ3000で送るのに3キロ炊かないといけないってなると家計からホイホイと出せる値段ではないわ。そりゃあそうじゃ。
また、資源保護のため解禁期間がかなり短くなった。
2週間くらいサイズを問わなければ売っていたのが血眼になって解禁日チェックしないと買えないくらいの年もそこそこ増えている。
最悪3日しか解禁日がなかった年もあったぐらいである。
しかも短くなれば単価もバカ上がりするのでより手が出ないお値段になる。
サイズも初日からめちゃくちゃ大きくなった。
これはこれでかみごたえがあって好きって人も多いのだが釘煮というよりかは正月のごまめの再来となるので炊くのを諦める人も多い。
そんなこんなで高いわでかいわ売ってないわで手が出ないと皆作らなくなる。
一年やめるとおばあちゃん方はもういいか、となったりとかでそのままいかなご作りをやめる人も多い。
新規参入もあんまり見込めない。
若い人でそんな昼間からスーパー巡って午後全部使って炊いてまた後日タッパーに詰めて送る人も共働きのご時世そこまで増える見込みがない。
というか親世代も働いてる人が多いので高いし時間かかるし手間もかかるのでセレブおばあちゃんやマダムが炊くものみたいな立ち位置に登りつつあると思っている。
実際神戸土産として三宮のセブンイレブンとか新神戸駅のセブンイレブンによく並んでる。
そんな感じでテレビやらメディアやらで取り上げられているけどもスーパーで並んでいてもワーっとそこに群がる人もチェックする人もかなり減ってる。
今後神戸ビーフよろしく高くなりすぎたがために地元民が食べないけど名産みたいな立ち位置に変わっていく可能性はあるな〜とたまに神戸土産で並んでいるのをみて思う。
それはそれで名産として残るんならアリじゃないかなとも思いつつ、安ければ多分実家に連絡入れるんだろうな!
母からいかなご値段チェッカーとしての名を受けてハントするのが楽しいのであって炊きたいという気持ちがないのだ。
罰当たりなやつである。
※この記事は書いたやつの経験とか記憶を頼りに書かれています、ちゃうとこがあったらメンゴやで